世界遺産の城塞都市カルカソンヌに別れを告げて、トゥールーズへと車を走らせる。 もう田舎道をゆっくりと走る「のんびりドライブ」は時間的に無理なので高速道路をブッ飛ばすのだ。
トゥールーズに近づくにつれて車が多くなってきた。 やはり、シトロエンやプジョーなどの国産車が多く走っている。 高速道路の出口が近くなったのでSAで一休みしてガソリンを満タンにして準備OK。 あとはレンタカーを返却するだけだ。
高速道路のトゥールーズ出口近くには料金所があって、30程度のゲートすべてに長蛇の列ができていた。 30分ほど列に並びやっと順番が来たので清算しようとすると、ゲートには係の人がいないぞ、無人ゲートだった。 カルカソンヌで高速に乗るときに受け取った磁気カードを読ませてから、表示される料金を支払うとゲートのバーが上がるというシステムらしいので簡単だなと思った。
磁気カードを機械に挿入する・・・・ すぐに戻ってくるがバーは上がらない。 数回トライするが同じ反応でディスプレイに料金が表示されないのだ。 よくよく見るとカードが認識されないというような表示が出ているような気がする。 ぶつぶつ言いながらも、ひたすらカードを入れては戻るということを繰り返していると、後続の車からブーイングというか皆さんクラクションをガンガン鳴らすのだ。
このブーイングに少々パニックとなった私は、後ろの車に駆け寄り美人の運転手お姉さんに「機会がこのカードを読まないのだよ、どうしたらいいのかわからないので助けて!」と訴えたのだった。 それを聞いたこのお姉さんは、突然すごい剣幕で怒りだして早口でしゃべりだしたのだ、なんだか怒っているのはわかるのだが、早口フランス語だから何を言っているのか全然わからない。
その後ろの車の運転手も怖い顔でこっちを見て何か言っているぞ、両隣のゲートに並んでいる車はどんどん進むのにこのゲートだけは我々がストップさせているのだから、そりゃ怒るわな普通。 お怒りモードでついに身振り手振りまで入ってきたお姉さんを無視して、またゲートへと戻る。 さてどうしたものか、バーを折って強硬突破するしかないのかなぁなどとパニックの中で考えていた。
突然、機械の隅のほうにあるボタンが目に入った。 Help と書いてあるような気がしたので押してみた。 おばさんの声で、どーしたの?という感じの声がスピーカーから聞こえたぞ。 カードを機械が読まなくて料金が表示されない、何度やってもダメなんです。 後ろの車のお姉さんがすごくお怒りで怖いんです! と言ったら、どこから乗ったんの? と聞かれたのでカルカソンヌからというと・・・・・ こちらから料金を表示させるのでちょっと待ってね、と言われた。
5秒後にディスプレイに料金が表示された、お金を投入するとバーがすーとが上がったではないか。 後ろの車のお姉さんに、うるさいぞバーカ! と言いながらやっとこの状況から脱出することができた。 ほっとしたら、ボタンの向こうのおばさんとは英語で話していたことに気が付いた。
後から冷静になって考えたのであるが、たぶんこのようなことは日常的に起こっているに違いない。 機会が読まない場合は即ボタンを押して係の人にどこから高速に乗ったのかを告げて料金を表示してもらえばよいということではないだろうか? 日本ではカードを読まないなんていう状況は想定の範囲外なんだけどね、うーん、そうに違いない。
最後の最後で思いもよらないトラブルになったが、なんとか乗り越えることができててほっとする。 一般道は順調であったがトゥールーズ駅横のレンタカー返却駐車場の入り口が狭くてなかなかわからず、同じ道を三度も探してしまった。 やっと駐車場に到着してどっと疲れが出た。 荷物をガラガラ引いてホテルにチェックイン。
さて、ゆっくりとホテルで休む暇もなく、すぐに街へと繰り出した。 お目当てのレストランの開店時間が迫っていたのだった。
そのレストランは、街の中心部にあって開店前から長い列ができていた。 開店時間はヨーロッパのレストランにしては早すぎる19:30で、開店前には待ち行列ができる。 開店の30分前に店に到着すると既に30名ほどの列ができていた。 この列はみるみる長くなり開店時間にははるか後方まで長い列となっていた。
空港から駅に向かうシャトルバスから偶然この行列を見たのが一週間前だった。とても気になって翌日この店をチェックしたが店の前にはメニューもなくて中は満員で待っている人もいる。 カルカソンヌでInternet接続してこの店の情報を入手してみると、なかなかよさそうな感じだったのだ。
開店時間になりこの行列が店になだれ込む。 指定されたテーブルに座るといきなり肉の焼き具合とドリンクを聞いてきたぞ。 そう、この店は「メニューひとつだけ」の店なので料理は注文しなくてよいのだった。 ウェイトレスが忙しく動き回り、サラダを一斉に運び出した。 奥のテーブルから順番に出してゆくスピードがすごい。
あっという間にサラダが配られたと思ったら次はパン、そしてメインの牛肉が多量のポテトと一緒の皿で出てきた。 肉が少ないかなと思いながら食べ始めたのだが、しばらくすると、下から燃料で温めている肉のプレートが出てきたではないか、びっくりしたな。
このレストランは、単一メニューで早い時間からオープンし、予約はできないというシステム。 サラダとポテト、パンはおかわりOKになっていて、飲み物とデザートは別注文となる。 最大の売りは「美味しい肉が安い値段」で、これが行列の原因なのだった。 店のつくりはもちろん高級ではないが決して安っぽくはなく、こぎれいで清潔、従業員もてきぱきしており感じが良い。
周囲のテーブルを観察すると、みなさん常連らしくリラックスして食事を楽しんでいる。 山盛りのポテトをおかわりするおばあさんや、ボトルワインをゆっくり楽しむ老夫婦、あっという間に食べ終わって出てゆく若いカップルなどいろいろ。 肉は柔らかくて美味しいのだが、なんといってもソースの味が絶品だった。 みんなデザートをオーダーしているのだが、どのデザートもものすごい大きさだったので、我々はとてもオーダーできなかった。
気になっていたレストランの美味しい料理を堪能して外に出たら、前の道が騒がしい。 車がホーンを鳴らしながら次々と走り抜けてゆくではないか。 車から身を乗り出してシャイアンスタイルで大きな旗を振っている奴らもいるぞ、もちろん?旗に書かれている内容は読めないけれど。 うーん、なるほど、結婚式のあとのパレードに違いないと勝手に考えた。 どこの国もやることは同じだと想いがながら、この騒がしい連中を眺めたのだった。
まだ外は明るいが夕暮れの雰囲気になってきた。 今回の旅行最後の夜、キャピトール広場のライトアップを見に行こうということになり広場へ向かって歩き出した。 途中で、夕日に染まる美しいサン・セルナン・バジリカ聖堂を眺めたりしながらぶらぶら歩く。 あちこちの道で同じような騒がしい車に何台も出会う。 まったく騒がしい連中だな、今日は結婚式が多かったのかな? などと考えながら歩いていると、やっと目指す広場が見えてきた。
まったく予想していなかったことに、広場には大勢の人がいた! それもどんどん増えてくるではないか! 市庁舎前の階段付近では拡声器を使い大声で話している男がいる。 あちこちで音楽が流されて、踊っている人たちもあちこちにいるぞ。 なんだかみんな興奮しているようだ、そしてとても楽しそうな感じだ。 今夜は何かのお祭りなのかな???
人混みの中広場を進み、市庁舎前までやっと辿り着いた。 あちこちで振られている旗をよく見てみると、「Hollande」という文字ばかりが目立つ。 うん、ホランデ? 違うな、Hは発音しない? オランデ? オランド? この旅の途中、あちこちの村で見た大統領選挙のポスターの写真が頭に浮かんだ。 そうか、大統領選挙の決選投票でオランドが現職大統領のサルコジを破って当選したのだということにやっと気が付いた瞬間だった。
フランス南部はオランドの支持基盤ということで支持者が多く、オランドが次期大統領に決定のニュースを聞いて喜んでいるということだったのだ。 しかし、この広場を埋め尽くす街の人たちのエネルギーは凄かった。 人間の興奮が集まるとこんなに大きなエネルギーになるということを、この広場でまさに体験してしまった。 熱い熱気がこちらにも移ってくるような気がした。
まだまだ熱気に包まれている広場から撤収し、歩いてホテルに戻ることにしたが、途中の道もたいへんなことになっていた。 繁華街のメインストリートの交通が完全にマヒしていたのだ。 クラクションを鳴らしながら旗を振りまわす車が溢れており、道路でも騒いでいる連中が大勢いる。 信号は役に立たず、交通整理の警官が出動しているが完全に無視されているという騒然とした状況。 まさに「街中が熱狂している」状態なのだった。
やっとの思いでホテルに戻って一息つく。 テレビではサルコジの敗北宣言会見を流していた、ミッテラン以来17年ぶりの社会党の大統領ということなので支持者の興奮もわかる。 4年ほど前にはシカゴにいて、オバマの歴史的勝利の瞬間の騒ぎを体験したことを思い出した。 アメリカとフランスの劇的な大統領交代決定の瞬間に現地にいるというのも不思議な巡り合わせだとつくづく思ったのであった。
今回の南西フランスの旅は、二か月前に銃撃事件があったばかりのトゥールーズから少し不安のままスタートしました。 絶景のロカマドール、洞窟の中のボートツアー、美しい城めぐりを楽しみました。 農家民宿で地元の料理を堪能して、小さな村サン・シル・ラポピー、コルド・シェル・シュルを見て、中世城壁の街カルカソンヌでは名物料理のカスレも経験しました。 最後の夜にはフランス大統領交代という歴史的な瞬間にも立ち会うことになり、印象に残る素晴らしい旅となりました。
フランスはパリだけではない、素朴で美しい場所が南西部には多くあるということが良くわかった旅でもありました。 また機会があればこの地方を訪れたいと思っています。 でも、しばらくはフォアグラは食べたくないですけど・・・・・
・・・・・・・・ The End

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