ピエンツァの城壁沿いの道路に面しているB&Bオーナー、アンドレアに別れを告げて車をスタートさせる。 村外れの教会に立ち寄ってから、フィレンツェへと向かう。 昨年と同じ道を走り、同じ踏切でなかなか来ない電車を待ち、同じ交差点で道を間違えて同じ道から戻ってくる。 同じカーナビで同じ運転手だから仕方ないか。
高速道路に無事乗ることができたのでひと安心、余裕で走っているとなんだか変な音がする。 変な音は車の外のサイドミラーあたりでどんどん大きくなってきた、嫌な予感がするぞ。 と、黒い紐のようなものが窓を叩くのを発見した!
最寄のPAへ緊急避難して確認すると、何と、フロントガラスを固定している黒いゴムが取れそうになっているではないか。 この状態で走り続けたら、ゴムが全部飛んでいってしまいフロントガラスが車から取れてしまうところだった。 危なかったと胸をなでおろす、今回のレンタカーはノートラブルだと思っていたら最後に大事故となるところだった。
ゴムを元の位置に戻し走り出すと、変な音もしなくなり状態は元に戻った。 危機は乗り切って安心、最後まで気が抜けないとはこのことだ。 来るときに休憩したSAで休みながら、「来るときはこのSAで大雨になったなぁ、あれから一週間も経つのか」と今回の旅行を振り返るとなんだか寂しくなる。もう少し旅行を続けたいな、日本には帰りたくないななどと思ってしまう。
寂しさを振り切り、高速道路をひた走りフィレンツェに向かう。 高速道路を降りて空港近くのガソリンスタンドで給油、夏に給油した同じスタンドはなぜか無人で、機械はクレッジットカードはダメで現金しか受け付けない。 満タン返しなのにどうしようかな?おつりはでるのかな?と悩んでしまう。 ガソリンの残量を示す針の位置とガソリン単価から計算して、エイヤと20Euroでガソリンを入れてみたら、なんとちょうど満タンとなった。 我ながら素晴らしい判断力であった。
空港では周囲の改修工事が派手に行なわれていて、レンタカーオフィスの場所が以前とは違う場所に移動していたり、返却時のシステムが変わっていたりして少しばたばたしたが、なんとか無事車を返却することができた。
いつもの路線バスでフィレンツェ中心部へと向かう。 バスの終点はすっかりお馴染みの駅だが降りる場所が夏とは違う。 ここから歩いて夏と同じホテルにチェックイン。 部屋で少し休んでから外へと繰り出した。
ホテルから2分も歩けばそこは観光客でごった返すドーム広場。 トスカーナの田舎で一週間も過ごした我々には刺激が強すぎて目が回る、本当に目が回る。 さて、このフィレンツェでは絶対に行きたい場所があった、サンマルコ修道院(美術館)だ。 ここにあるフラ・アンジェリコの作品を見なければ日本へは帰れない。
実は、20年前に初めてフィレンツェに来たとき、夕方にこのサンマルコ修道院を訪ねたのだが、何と閉館までまだ30分以上もあったにももかかわらず入場を拒否されたのだった。 まだ時間があるだろうと粘ったが入り口の係りのおばさんは頑として入場を拒否、泣く泣くあきらめたという苦い経験があった。
夏には時間が合わず行けなかったこともあり、今回のこのチャンスを逃すともうこの美術館には一生行けないという気がしていたのだ。 ガイドブックでは19時閉館、念のためチェックした別のガイドブックでは17時閉館と書いてあった。 そういうときは、確実に17時閉館なのだ、特にイタリアではそうでしょう。
15:30に修道院に到着、入り口の扉は開いておりほっとする。 予想通り閉館時間は17時だった。 美しい中庭を眺めながら心を落ち着かせてから、目指す作品を探す。 二階へと向かう階段の踊り場で振り返った瞬間、階段の上の空間にちょうどすっぽりと収まる形で、その絵はあった。 フラ・アンジェリコの受胎告知だ。
見ているだけで心が落ち着く絵とはこの作品のことだ、静かな修道院の中の壁画、階段を上りきったところという完璧な設置場所、そして描かれているマリアと天使のすきとおるような表情、淡い落ち着いた色使い、完璧な作品だ。 やっとこの絵にたどり着いた満足感と、本物でしか味わえない感動、この絵と同じ空間にいる幸せを噛み締めるのだった。
二階には修道士たちの個室がそのまま残っており、それぞれの小さな部屋には壁画が描かれていた。 この壁画も素晴らしかった。 閉館時間近くのこの修道院跡の美術館は人も少なく、信仰心溢れる壁画を眺めていると、当時の修道士たちが廊下を歩いたり神に祈りを捧げたりしている風景が見えるような気がした。
最後にもう一度受胎告知を眺めてから、この素晴らしい二階の空間を後にした。 受胎告知はウフィッツィ美術館のダ・ヴィンチ作品が有名であり私もとても気にいっているのだが、ダ・ヴィンチの作品からは力強さを感じるのに対して、このフラ・アンジェリコ作品からは静かで澄んだ心を感じる。 素晴らしいワインの香り、味わいと同じで、どちらが良いという次元の話ではない。
さて、素晴らしい絵に出会って幸せな気分になったので、残りの作品を鑑賞しようと一階に戻ると何か騒がしいぞ。 係員が「閉館時間です」とか言いながらみんなを追い出しにかかっていたのだった。 時間は16時30だ、まだ閉館時間までは30分もあるぞ。 まだ見ていない部屋に入ろうとすると係員が仁王立ちでダメだという。 何とか粘って部屋には入ることができたが入り口で係員が早く出ろと催促するので、ゆっくりと鑑賞できない。 仕方なく出口近くの売店まで行ってみると、これまた売店はお片づけが完了寸前。 店じまいなので売れないというところを、ここでも粘って絵葉書を1枚購入。 周囲を見ると係員ばかりで我々が最後のゲストだった。
まったく、なんなんだあいつらの態度は! と怒りながら、でも多数の係員に無理やり押し出されるように出口から放り出された、時間は16:50だった。 なるほど、閉館時間というのは係員が帰る時間のことだったのかと妙に納得してしまったのだが今ひとつ納得できないなぁ。 修道院入り口に行って確認したところ、当然のように入り口の扉はしっかりと閉まっていた。
さて、お腹がへってきたぞ。 昨年は1kgのT-boneステーキを食べたことを思い出し、同じレストランに行ってみた。 まだ時間が早いので予約なしでも入れたが、こんな時間からアメリカ人の団体ご一行様が騒いでいてとてもうるさかった、残念。 さすがに今回は1kgのステーキではなく無難な料理をオーダーした。 この旅行中、ありこちのレストランで見かけた「ほうれん草だけの皿」をやっとここでオーダーすることができた。 葉の部分だけを炒めた料理なんだけれど、とっても美味しかった。 ワインに合う味だと思った。
ほろ酔いで、寄り道しながら宿に向かう。 夜になってもこの世界的な観光都市フィレンツェは、多くの観光客がそぞろ歩いている。 ショーウィンドウを見ながら歩き、ジェラテリアでアイスクリームを食べる。 ライトアップされている大聖堂が美しい、宿の裏のほうにあるメディチ家の礼拝堂もライトアップされていて落ち着いた姿を見せていた。
・・・・・・・・ to be continued

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