★ ボイ渓谷(Vall de Boi) 1★


 ボイ渓谷の朝、ゆっくりと起きてホテルで朝食。 バイキング形式だったので、ランチのサンドイッチを作り準備万端だ。 ボイの隣のタウル(Taull)という村に向かった。

山道を少し走った村の入り口にその教会はあった。
日本で見た写真に添付されていた文章では、「村はずれにぽつんと建っているこの美しいロマネスク教会は、世界遺産に登録された」となっていた。
「ぽつんと建っている」という箇所でイメージが膨らみ、私の中では「ピレネーの山奥、村のはずれにひっそりと佇む美しいロマネスク教会の姿」が出来上がってしまっていたのだった。

ところが実際に見ているこの教会は道路のすぐ脇にあって、周囲は家だらけだったのだ。 まさかと思いながら確認すると、なんとこの目の前の教会があの有名なサン・クレメン教会だったのだ。 これには正直って失望してしまった、あまりにも違うイメージに眩暈がしたほどだ。
写真を撮ろうと思っても背景に必ず工事中のクレーンの姿が入ってしまう。 以前は静かな小さな村だったが、世界遺産に登録された影響で観光客が多く来るようになったため、宿泊施設やレストランなどを急ピッチで建築中ということだろうと思って少し悲しくなってしまった。
しかし、まだ午前中の早い時間だったので、観光客の姿もチラホラだったのは幸いであった。 この国の朝は遅いのだ。
気を取り直してじっくりと見てみると、バランスのとれたこの教会の姿はとても美しいことがわかってきた。 高い山々を背景にしてどっしりとしている教会には、堂々とした威厳を感じることが出来た。

 タウル村のもうひとつの教会、サンタマリア教会へと向かった。 村の中を横切り歩いていると、サンタマリアホテルを見つけた。 このホテルは日本から予約しようとしたが満室と断られ、前日にエル・ポント・デ・スエルトのインフォメーションセンターでもトライするが「ずーと先まで満室」と断られたのを思い出しながら通り過ぎる。
このサンタ・マリア教会も世界遺産だ。 美しい教会であるが、この教会は村の中にあり周囲は普通の家という雰囲気だった。

二つの教会の内部には、それぞれ特徴が違う壁画があった。 残念なことに、これらの壁画はレプリカであり本物はバルセロナのカタルーニャ美術館にある。 我々は本物の壁画を見てからこのボイ渓谷にやってきた、ほんの数日前に本物をじっくりと見ているだけに、このレプリカには耐えられなかった。

完全な空調設備とセキュリティに守られている本物の壁画は、本当に幸せといえるのだろうか? 風化のために劣化して最後には朽ち果ててしまっても、本来の場所である教会内部にそのままにしていくべきではなかったのか? などといろいろ考えてしまった。 この山奥の小さな村に奇跡のように存在していた教会と壁画、そのままの形でひっそりと村人たちと一緒にしておくべきではなかったのか、壁画はある日突然政府の役人が来て都会へ持っていってしまい、代わりに魂のないレプリカが運び込まれ、世界遺産に登録されて観光客が押し寄せてきて、村にはホテルやレストランが増えて・・・・
村人たちが一番の犠牲者なんだろうな。

教会の見学をざっと済ませてから、タウル(Taull)の村から更に山の上へと続く道をどんどん登って行った。 しばらく走ると道は山の上のスキー場入り口で行き止まりだった。 そしてそこから振りかえって見る風景は絶景であった。 雪を頂く高い山々、広大な草原、のんびりと草を食む牛たち、澄んだ高原の空気。 見飽きない景色とはこのことだと思った。 どのくらいの時間その場所にいたのだろうか? 心地良く風に吹かれて山の空気を味わいながら山を眺めていると本当に時間の経つのを忘れてしまう。 我に返り、来た道を引き返してタウルの村に戻る。


 タウル村の二つの教会はどちらも美しい姿であったが、私はサン・クレメン教会の姿の方がより全体的なバランスが取れていて素敵だと感じた。 でも、昔は本当の自然の中にひっそりと建っていたに違いない、以前の風景を想像してみた。
10年前に訪れるべき場所であったのかもしれないと思った。



・・・・・・・・ to be continued


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