「ハーバー・ビュー」という名前のB&Bは部屋から美しい湾が一望できる絶好のロケーションであった。 Kenmareの町の大渋滞が嘘のような静けさの中、Kenmareから5キロ離れたRing of Bearaの道路沿いのこの場所は別世界だった。
チェックインして一休みしてから、B&Bで紹介してもらった近くのBARへと行ってみた。 現地の人たちに混じってテーブルに陣取り、まずギネスビールをオーダーする。 長距離ドライブで疲れた体に冷えたギネスが心地よい幸せな瞬間、本場のギネスの味は格別で、値段も日本のアイリッシュパブの半分以下だ。 ゆっくりと夕食を楽しんで宿へ戻り、夜の9時になってやっと夕焼けとなった幻想的なベアラ湾を飽きることなく眺めていると時間の経つのを忘れてしまう。 夜には車もほとんど通らなくなり、周囲は静寂に支配されてしまった。
美しい湾を目の前に見ながらの朝食、シリアルをどうぞと言われてコーンフレークや正体不明の穀物などを皿に入れてミルクを加えて食べる。 コーンフレークなんて小学生のとき以来だが、宿泊客は席に着くや否や全員すごい勢いでこれを食べるのだ。 そして朝のメインであるアイリッシュ・ブレックファストは、今回の旅行で朝が来るたびにどんどんボリュームがアップしてきたのだ。
このB&Bでは温めた、というか触れると熱くて火傷しそうな皿でドーンと運ばれてきた。 薄くカリカリに焼いたトーストも美味しいが、ソーダブレッドというパンがこれまた美味しいので、朝からものすごい量を食べてしまう。 食後のグレープフルールがとても美味しくて、相当な量を毎朝食べる。
この日も出発しようとした途端に雨が降り出した。 毎朝フル雨に慣れてしまって、少し様子を見ていたが降り止む気配はない。 この日の予定は「Beara半島一周」に決定、有名な観光コースであるケリー周遊路(Ring of Kerry)は翌日の快晴?に期待することにしたのである。
Kerry湾を右手に見ながらしばらく走るが道路はガラガラ、しばらく走ってから細い細い道を左へ曲がり内陸部へと向かう。 美しい湖と滝、そして大昔のストーンサークルがあると前日B&Bで見つけた現地のガイドブックに書いてあり心引かれたからだ。
この横道がとても狭くて、車1台がやっと通れる幅しかない。 まったく観光化されていない自然のままの湖を通り越すとまた別の湖が現れる。 ずいぶん奥に行くと道は二手に分かれており、右の道が「ストーンサークル」との標識、右の道を選択してしばらく行くと行き止まりで、車はそこまで。 あとは歩いてストーンサークルまで行くのだが、この道が大変だった。 朝からの雨で広大な草原は水浸し、ストーンサークルまでのあぜ道は既に道ではなく沼と化していたのだった。 雨はすっかり上がっていたが、この沼の中を意地になって靴の中を水浸しになりながら草原を歩き、やっとストーンサークルへとたどり着いた。
ストーンサークルは、丘の上にあった。 中心に細長い石が垂直に立っておりその周囲を円状に背の低い石が取り囲むという形で確かにストーンサークルだ。 でも相当小さいぞ。 大昔に誰が何の目的でこれを作ったのだろうと思いを太古に馳せる。 これを丘の上に囲いも何もなくて、作られた状態そのままにしているこの国もすごいが、誰もいたずらしないという事実も良く考えたらすごいことだと思った。
でも、ここまで水浸しの草原を歩いてきた努力の結果がこの小さなストーンサークルかと思うと悲しくなった。 しかしこの丘の向こう側、ストーンサークルの場所からはまた新しい湖が見下ろせたのだ、人工物がまったく目に入らない自然のままの景色、騒音もない完全な静寂、声も出ない。 湖の遥か対岸には大きな滝が見えた。
道を引き返し、さっきの分かれ道の逆へ行ってみる。 この道が更に狭くて車1台がぎりぎり、対向車が来た場合には絶対にすれ違いができない。 この道を10分程度ストーンサークルの丘から見えた新しい湖に沿って進む。 道は滝の横で終点、小さな駐車場で車を止める。 そこからは歩いて滝まで行くことが出来た。 間近で見る滝はすごい迫力だ、いったいこの山のこんな場所にどこからこのような膨大な水が集まってくるのか不思議な感覚に襲われる。
滝の近くには激しく流れる川があり、川の横の「River Walk」という道を上流に向かって探索した、戻りは草原を歩く。 山奥の湖、古代の遺跡、滝、川、そして広大な草原、これらを一度に楽しむことが出来てとても満足した。
大自然に囲まれた素晴らしい景色に見とれてしまい、時間の経つのを忘れてしまったようだ。 すっかりこの山奥に長居してしまった。 何時間でもいたい名残惜しい場所ではあったが、戻らなければならない。 とても狭い道を戻る、30分程度走ったが、対向車は1台だけだった。 この場所は完全な「穴場」だ、得した気分。
Ring of Bearaの道路に戻り、予定通り半島一周のドライブを続ける。
Ring of Beara道路を車は快調に進んでゆく、困ったことに道路はこの半島の先端に近づくにつれて、どんどん道幅が狭くなってくる。 もともと少ない交通量も更に少なくなり車はほとんど走っていない。 ときどき停まって放牧されている羊を見たり、美しい湾を眺めたりしながらのんびりとドライブを続ける。 そして半島の先端を通り過ぎてから南の海岸道路を少し走り、途中から内陸へと進路をとり、Healy Passという峠へと向かった。
山を登ってゆくと気温はどんどん下がり、海沿いの道とはまた違った風景が広がってゆく。 小さな店が一軒だけある峠に到着し、車から外に出ると寒いこと寒いこと。 まずは今登ってきた方向を見る、曲がりくねった道と山の景色が美しい。 次に反対側を見るとまた違った景色で、放牧されている羊と美しい湖が一望できるのだ。
人工的な建造物が全然目に入らない景色は本当に美しいとあらためて実感することができた。 道路もガードレールがなくて自然と一体化しているのだ、運転は少し怖いけれど・・・
この峠で景色に見とれていると、後ろから突然日本語で「きれいな景色ですね」と声をかけられた。 振り向くと地元の雰囲気漂う白い髭のおじいさん、サンタクロースのような特徴的な風貌のこの老人が流暢な日本語で話しかけてきたのには驚いた。 聞けば、日本に昔20年も住んでいたとのこと。 自宅がこの半島のもうひとつ南の半島にあるらしい、アイルランドのこのあたりの半島はどれも美しいと自慢するサンタクロースのおじいさん、思いがけず素敵な出会いであった。
・・・・・・・・ to be continued

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