ディングル半島に入った途端、海沿いの道は果てしなく真っ直ぐであった。 地図で見ても定規で引いたようなまっすぐな道で、草原の真ん中に突然未知を作ったとしか思えない。 この国の激しい天候の変化にはもう慣れてしまったが、一面の雲はどこかへ吹っ飛んでいってしまい空は快晴で夕方だというのに光が眩しい。
湾の対岸にはイベリア半島が見える、さっきまで走っていたRing of Kerryがあるはずだが、上空はやはりどろんとした雲が居座っている、こちらは快晴であちらは雨というのが実感として分かろ、場所によってどんどん天候が変わるのも仕方ないかと妙に納得するのであった。
車は快調にディングル半島を疾走する。 この半島最大の町ディングル(Dingle)をあっというまに通過してしまってから、予約してあるB&Bを探す。 ファームハウスB&Bという宿を予約したのだが、大体の場所しか把握できていない。
ところがディングルを過ぎたあたりから道路標識の感じが一変していることに突然気が付いた。 地図に載っていない地名が続々出てくるのだ、もう宿はすぐ近くという場所で、突然現在位置がわからなくなってしまったのだ
道に迷ったのは、「道路標識がゲール語で書かれていたため」であった。 ダブリンの本屋で購入した道路地図帳は英語表記であったが、このあたりではなんと「ゲール語だけ」が道路標識に書かれていたのであった。 ディングル付近までは英語とゲール語が併記されていたので道路地図帳との対応がとれたのであるが、ディングル周辺からは突然英語表記が消えうせてしまっていたのだ! これにはお手上げでどうしようもない。 この地方の人たちはゲール語を日常的に話しているので何ら問題はないとのことだが、旅行者はたまったものではない。
仕方なく、目を皿のようにして道路標識を見て走りながら宿を探す。 嬉しかったのは、交通量がとても少ないので標識の前で車を停めてじっくりと見ることが可能だったこと。 目指す宿であるB&Bの標識を見つけたときには本当に嬉しかった、標識に従い道路を右折する。 両側が美しい花の壁に囲まれた細い道である。 小さな交差点で標識を見つけて指示通りに右に曲がる、更に道は狭くなりもう対向車とすれちがいできない。 しばらく行くと左折しろとの標識、左に曲がると更に狭くなった道が・・・ 周囲を野原に囲まれた家が見えた、突き当りが目指すファームハウスB&Bであった。
このファームハウスは文字通り「牧場の真ん中に一軒だけ」の家だった。 夕方に到着したのだが、すぐにホームメードスコーンと紅茶で歓迎してくれたのが嬉しい。 遠くの道路を走る車の音が時々聞こえるほかは、牛の鳴き声と風の音しか聞こえない。 まるで別世界なのだ。
夕食は、B&Bで紹介された近くの地元のパブへ行った。 地元連中がサッカーを見ながら大いに盛り上がっているというどこでも見られる風景だ。 ここではマーフィーズをオーダーする、とても美味しくて満足。 ディングル湾で採れたエビなどを食べて大満足したのであった。
翌日は朝から雨だ、この国の、特にこの地方の、特にこのあたりの大西洋に突き出た半島の天気は瞬間的に激しく変化する。 雲の動きが恐ろしく早くて、雨、曇り、快晴、また雨かと思えば太陽が現れる遠いう具合で、一瞬先が予想できない。
この天候にすっかり慣れた我々は、朝からの雨も全く気にせずにディングル半島のドライブに出発した。
昔の要塞跡やBeehive Hutと呼ばれる石を積み上げて作られた住居跡など興味深い遺跡を巡りながら、風光明媚な海岸線のドライブを楽しむ。
ディングル半島の先端はスレア岬という場所で、真っ白な十字架が目印だった。 好天であれば、素晴らしい風景と聞いていたが、あいにくの空模様で視界が悪くてとても残念だった。
ここでは鳥の写真などを撮って、絶景を見ることは諦めることにした。 このスレア岬から少し先に言ったあたりに車がたくさん停まっている場所があったので行って見た。 皆が歩く後ろについて丘を登ってゆくと「ここから先は私有地のため進入禁止」の立て看板があり、フェンスで通行止めがしてあった。 ところが、多くの観光客はこのフェンスを乗り越えて更に丘を湾の方へと登ってゆくではないか。 我々もフェンスを乗り越えたことはいうまでもない。
一面の草原の緑は全体的に黒い色が混じっている、家畜の糞なので踏まずに歩くのがとても難しい。 注意深く丘を登ってゆくと丘の上は素晴らしい景色であった。 風が強い、遮るものは何もない草原でじっとしている羊たち。 今走ってきた海沿いの道とこれから走る道が背後に小さく見える。 目の前には荒々しい自然に囲まれた美しい島が横たわっている。 立ち入り禁止の私有地である丘を登るハイキングは楽しかった。 時間がどんどん過ぎてゆく、丘を下りメイン道路に戻り、ドライブを続けるのであった。
次の目的地は「ガララス礼拝堂」だ。
ディングル半島のドライブは、全体的には天候に恵まれなかったが大事なポイントでは雨が上がりラッキーな一日であった。 遺跡や丘ハイキング、ガララス礼拝堂などでは雨が上がり運転中は雨が降るというパターンだった。
ガララス礼拝堂は9世紀頃の建築物で、この付近に残る遺跡と同じように小さな石を無数に積み上げて作られている。 保存状態が良好であり観光客が内部に入ることが出来る。 この礼拝堂はユニークな形をしており印象的であった。 内部は小さな窓がひとつあるだけのシンプルなものだが、とても神秘的な建造物であることは間違いない。
ガララス礼拝堂に別れを告げ、半島の北の道を走りディングルの町へ戻った。 ディングルの町は小さな可愛らしい町だ。 有名な水族館があり(行っていないけど)、スパーマーケットなどで買い物も出来る。 天気が良ければイルカ見学ツアーの船も出ているらしい。(行けなくて残念だった)
スーパーで食料を買い込み、宿でゆっくりと夕食を楽しんだ。 夜になると人工的な音はまったく聞こえなくなり、虫の声、時々牛の声、風の音、雨の音・・・
「こんなに熟睡したのは本当に久しぶりだ」と翌朝思った。
・・・・・・・・ to be continued

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