★ フィレンツェからチビタへ ★


 フィレンツェ二日目の朝、騒音がなく熟睡できたので快適だ。 前日のぶらぶら歩きで時差ぼけも解消している気がする。 朝食を済ませ、ホテルでゆっくりしてから、ダウンタウンのレンタカーオフィスへと向かう。
 
今回の旅行のレンタカーは Maggioreという名前のイタリアらしい響きの会社だった。 WebSiteでホテルの予約をしたところ、予約代理店から「格安でイタリアのレンタカーの予約をどうぞ」とメールで案内された。 Check-OUT,Check-INの日時と場所、車のクラスを送ると値段が回答される。 安かったのでこの会社に決定したところ、最初に10%程度の金額をデポジットでクレジットカード口座から引き落としされ、一ヶ月前くらいまでに変更やキャンセルなければ残金全額を引き渡すという取引ルールが通知されてきた。 

出発の一ヶ月前、忘れた頃に全額引き落とし完了のメールが届き、そのときになって初めてレンタカー会社が通知されてきたのだった。 Avisかな? Hertzかな?、Europcarかな? と期待していたので少し不安になる。 Magioreは初めて使う会社であるが、一応イタリアの大手レンタカー会社のようなのでまあ大丈夫かなと安心する。 ただし油断は禁物で、ルーマニアのときのようにEurocar(Europcarではない!)などという紛らわしい名前のとんでもない小さな会社でぼろぼろの車を借りるようなことにはならないだろうなと、実はとっても不安だったのだ。

手続きを待つ人が列を作って大混雑状態のHertzオフィスを通り過ぎた道の奥にそのMaggioreのオフィスはあった。 ガラガラで待つこともなく手続きはあっという間に完了。 路上に無造作に停めてあった車が、これから一週間の愛車となる FIAT PANDAであった。 小さいなぁ、PANDAとは弱そうな名前の車だなぁと思ったが、まあいいかということで早速カーナビをセットアップして車をスタートさせた。 

持参したカーナビは当然昨年使ったものと同じだ。 取り付けはエアコンの吹き出し口にセットするタイプで昨年は問題なくセットアップできたのであったが、このPANDAは吹き出し口が小さくてうまくセットアップできない! さて困ったぞ、結局吹き出し口の少しへこんだ収容スペースに強引に押し込み使うことにした。 この固定が甘くて、車がカーブするたびにカーナビ画面も一緒に方向を変えるのでなんとも使い辛いカーナビとなってしまった。


 昨年はPisaの空港で車を借りたのですぐに高速道路に入ることができて運転は楽だったのだが、今回はダウンタウンで借りたのでフィレンツェの街をしばらく走ることになった。 この街もヨーロッパの古い街と同じくとても走りにくい。 道は狭くて一方通行だらけ、びっしりと路上駐車しているのもあたりまえの風景で、くねくね曲がる道、路面電車が通っている道などややこしい。 信号は日本と違い基本的にとても見にくい場所にあり、地元の皆さんの運転はとてもとても荒くて、なんとも恐ろしい運転を強いられた私はもうパニック寸前。

カーナビの指示に従い、なんとかこのややこしい街を走り抜けて高速道路に入ることができた。 高速道路に入ると安心して、いつもと同じく最初のサービスエリアで早速休憩する。 上りと下りが同じ設備を共有するタイプのサービスエリアなのだが、なんと道路の真上にレストランがあり席から真下に高速道路を走る車を見ることができるのだ。 地震国の日本にはこんな場所はないぞ、と思った。 このサービスエリアのカフェで休んでいると突然空模様が怪しくなり、雨が降ってきた、と思ったらもの凄い夕立になってきた。 凄まじい雨脚で視界1mくらいかな、これではとても高速の運転なんてできないと思いながら呆然と眺めるしかない。 夕立は夏だけではなかったのかと少し驚いた。

夕立は30分程度で上がりすぐに晴れ間が戻ってきた、休息も十分とれたということで車をスタートさせる。 高速道路を南にひた走るのだが、制限時速130kmのこの国の高速道路では、日本の感覚で時速100kmで走っていると次々と後続車に追い抜かれることになる。 みなさんこの制限時速130kmの道路を150km以上のスピードでまったく普通に走っているのである。 渋滞は常に追い抜き車線で発生するのがおもしろい。 FIAT PANDAの性能ではみなさんと同じように高速カーチェイス運転は無理とあきらめて、走行車線をゆっくりと走りときどき余裕のあるときにトラックやタンクローリなどを追い抜く運転を続ける。


二時間も走っただろうか? トスカーナを素通りしてウンブリア(UMBRIA)州に入り、更にどんどん南下してゆくとついにカーナビが高速道路を降りろと言ってきた。 ORIVIETOの標識に従い高速道路から一般道に入ると、やっとイタリアの田舎の道路っぽくなってきた、もうここはUMBRIA州なので景色もトスカーナとは違うことに気が付く。 お馴染みのマイロードで前にも後ろにも車はいない、対向車もとほんど来ない。 リラックスして周囲の景色を楽しみながらのんびりゆっくり走る。 しばらく田舎道を走ると、道路脇の標識がUMBRIA州からLAZIO州に入ったということを告げる、と思ったらすぐに目的地のバーニョレージョ(Bagnoregio)という小さな村に到着した。 この小さな村はチビタ(Civita di Bagnoregio)の隣にあり多分歩いてチビタに行けるはず、この村が今夜の宿泊地点なのだ。

宿は近いとカーナビは説明する、ゆっくり走っているとカーナビは目の前の一方通行の道を逆走しろと言ってきたぞ、ここはカーナビの指示を無視して別の道から宿を探す。 狭い道路の左に目指すB&Bを見つけたが、この宿は狭い道に面しており駐車はできない、とりあえず通り過ぎるたらそこは小さな村の広場だった。 来た道は一方通行で戻れないのでそのまま広場を通過して走りながらカーナビを再度設定すると、まっすぐ行って右から回り込めという指示。 指示通りに右に道を曲がりしばらく行くと、なんと、なんと、突然、本当に突然、目の前に信じられない光景が出現したのだった。


 目の前に広がる景色、そう、ここがチビタ(Civita)だったのだ! 周囲を断崖絶壁に囲まれ車は通れない細い道1本だけで隣の村バーニョレージョ(Bagnoregio)とつながっている小さな村、今なお回りの絶壁が崩落を続けており村自体がどんどん小さくなっている「くずれゆく村」、まさに「死にゆく村」、今回の旅行の前半のハイライトの村に偶然にも到着していたのだった。 橋の下の駐車場に車を停めてこの信じられない景色を呆然と眺める。 カーナビはここから更に進めといっているが車が通れる道はない、そう、道路はここCivitaで行き止まりだったのだ。

もう夕方で観光客はほとんどいない、空模様はまたまた怪しくなり雨が降りそうで気温が下がってきて寒い。 どんよりとした空に不気味に浮かぶ不思議な村、なんだかこの景色が現実だとは思えない不思議な気分になってしまう。 今にも降り出しそうな空をしばらく眺めていたが、チビタ観光は翌日と決めて、来た道を引き返して宿へと向かう。

この周辺には宿が極端に少なく探すのに苦労した。 バーニョレージョという隣の村でやっと見つけたB&Bでは、おじいさんが入り口横の小さな暗い部屋の小さなテレビでサッカーを見ていた。 部屋は二階の道に面した良い部屋で道の反対の怪しい駐車スペースに停めた愛車が見えるので安心だ。 おじいさんは「うちには良いレストランがあるのだけれど残念ながら今夜はお休みだよ、夕食は村のレストランに行きなさい」と親切に言ってくれるのだがなんせ英語が怪しくてそのレストランの場所を聞きだすのにも一苦労。

まだ夕食には早いので村を探索する、本当に小さな村であっという間に一周してしまった、特に見るところもない。 まずは旅行の必需品となる水を買い込み宿に戻る、途中で雨が降ってきた。 橋を渡ってCivitaへ行っていればこの雨に遭遇するところだった、行かなくて良かったなと思った。 レストランは19:30からだというので空腹の我々は時間ぴったりに行ってみると、いつものように我々が最初の客だ。 小さな村には似合わない広いレストランだ。 メニューもしっかりとしており、美味しかった。 ハウスワインをオーダーしたが、とても美味しかった。

ゆっくりとした夕食を済ませると時間は10時、外は真っ暗で車もまったくいない、レストランにだけ明かりがついていて異次元空間へ迷い込んだような気分になった。 雨は本降りになっていた、レストランから宿までは歩いて5分程度なのだが、この真っ暗な夜道がとても怖かった。


・・・・・・・・ to be continued


フィレンツェ -前半  天空の村チビタ



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