★ 天空の村チビタ ★


 朝起きると窓の下の道路が騒がしい。 窓から覗いてみると、子供たちが先生に引率されて大きな声で互いに話しながらぞろぞろと歩いているぞ。 なるほど、昨夜のレストラン近くには大きな駐車場があったのを思い出した、駐車場にバスを停めて歩いてチビタに向かう途中に違いない。 前夜の雨が嘘のように空は青く快晴、ラッキーとうれしくなる。

B&Bの朝食は立派な内容で、ハンドメイドのジャム、ホームメードのケーキなどがずらりと並んでいる。 おじいさんが世話を焼いてくれる。 英語がとっても怪しいこのおじいさんとの会話、何故か弾んで大騒ぎになるのがおもしろい。 ゆっくりと朝食を済ませてからチビタへと向かう。 場所がわかっているので散歩を兼ねて歩いてゆくことにした。 チビタへ向かう道沿いに教会が三つもあった、どう考えても人口の割りに教会が多い、不思議。


 晴れた空をバックにしたチビタの姿は、期待通りの素晴らしい眺めだった。 まったくなんという景色だろうか! これが本物の絶景なのだ、ずーと見ていてもまったく飽きることがない。 しばらく眺めていたが、このままでは時間が経つのを忘れて夕方になってしまうような気がして、細い道を渡りチビタの村へ行くことにした。 橋の上は風が強くて寒いくらい、そして途中からどんどんきつい上り坂になっていた。 実はこの小さな村にも一軒だけB&Bがあり、最初はそこに泊まろうと考えていたのだが結局止めたのだった。 こんな坂道を荷物を引きながら登って、翌日には降りるのだったのかと思うとこの決断は正解だったと思った。

橋を渡りチビタに到着、城壁の門をくぐり坂道をゆくとすぐに広場に出た。 この広場が村の中心で、可愛らしい教会が広場に面して建っている。 相当なエリアが既に崩れ落ちてしまったのだろうか、村は本当に小さくてあっというまに一周してしまう。 というか広場からの道はどの方向に歩いてもすぐに行き止まりとなり、断崖絶壁となるのだ、まさに崩れ落ちる寸前の建物が、断崖絶壁の縁に立っている風景はあちこちで見ることができる。 これらの建物は危険なので人は住んでいないというのも納得できる。

広場に座りランチタイム、もちろん朝食から作ったサンドイッチ。 ちょうどシェスタの時間なのか、月曜なので観光客が少ないのか、広場には地元の若者と猫しかいない。 この村には猫が異常に多くて、人懐っこく寄ってきてこちらをじっと見つめてくる。 猫達を眺めながら広場でゆっくりとランチタイム、そしてまた村をブラブラした。 どうも腕が日に焼けてひりひりする。 たぶん標高も相当高い場所にいるのだろうと想像してしまう。

広場に戻りしばらく猫と遊んでいたが、午前中の絶景を思い出し橋の向こうからこの村をまた見たくなったので、橋の向こうの村に戻ることにした。 朝チビタへ向かう道の途中に「景色の良い場所」と書かれた標識を見つけていたので、その標識に従い斜面の階段を登って見た。 階段の上には開けた場所があり、そこから見るチビタの風景がこれまた素晴らしい! 周囲を断崖絶壁に囲まれ天空にぽっかりと浮かぶ小さな村チビタ、崩落がいまなお続く滅びゆくこの村の眺めはなんとも哀愁を帯びた景色に見えた。 いったい何枚の写真を撮ったのだろうか!!! 


チビタの絶景に堪能したので、宿に向かってブラブラと歩きだした。 やはり観光客は少ないなぁ、うーん不思議。 日本だったら、ものすごい観光客が押し寄せること間違いなしだと思うのだけれど。
この村は、スタジオジブリ作品「天空の城ラピュタ」のオリジナルイメージの村だと聞いたが、なるほど実際に見てみると何となく納得できる。(実はジブリ作品はあまり好きではないので、記憶に残っていないのだけれど・・・)
宿に戻り休憩、またはお昼寝。

夕方目覚めると、なぜかまたチビタを見たくなり今度は車で出かけた。 夕方のチビタもまた美しいので感動だ。 橋を渡り村に入る、相変わらず観光客はいない、猫は元気。 しばらくブラブラしていたが、教会も閉まり土産物屋も閉店、カフェも店仕舞を始めたので我々も撤収することにした。 坂道の橋をブラブラ下っていると、反対側から大きな荷物を引きながらこちらへ歩いてくる女性のグループがいた。 彼女たちはこの坂道を登り村のB&Bに泊まるのだと思って、「頑張れ!」と声をかけたら、「私達の足は強いから大丈夫、健康にもちょうど良いわ」などと言っていたぞ、でも彼女達は汗びっしょりだったな。

宿へ戻る途中で、またまた「景色の良い場所」へと続く階段を登り夕方の光線にキラキラと輝くチビタの絶景を堪能した。 カメラの望遠レンズを覗くと、先ほどの女性たちが荷物を引きながらようやく橋を渡りきり村の入り口に着いたのが見えた、お疲れ様!


 宿のおじいさんは「今夜は宿のレストランやっているのでどうぞ」と言っていたので宿のレストランで夕食にした。 若い女の子が普段着で出迎えてくれたこのレストランは宿の奥にあった。 オーダーしたパスタを食べていると、隣のテーブルでは例のおじいさんと奥さんらしき女性、そして普段着ウェイトレスの三人で夕食が始まったのでびっくりした。 うーん、隣は家族の夕食だぞ、客は我々だけなので少し変な感じ。

奥さんと娘が、自分たちの夕食を食べながらこちらをちらちらと見る。 パスタを食べ終わる少し前に、奥さんが席を立ち厨房に向かうと、肉を焼くじゅうじゅうという美味しそうな音が聞こえてきた。 程なく同じく夕食を中断して席を立った娘が、ステーキを運んできたのだった。


 翌朝も宿で朝食、またまたおじいさんが世話してくれる。 コーヒーのお代わりは大丈夫かと何度も聞きに来てくれる優しいおじいさん、それはうれしいのだがコーヒーがまずいので困ってしまう。 この宿は、誰の趣味かは知らないが、いたるところに象の置物がおいてある。 象屋敷だなぁと感心する。

チェックアウトしてから車で気になっていた、「別の景色の良い場所」へと向かった。 歩いてチビタへ向かう道は途中で右のわき道に入るのだが、わき道に入らずにまっすぐに行くとそこにも「眺めのよい場所がある」と標識に書いてあったのでぜひ行かなくてはと思っていたのだ。 

「別の眺めの良い場所」は道路の突き当たりにあった。 なんとこの道路はそこで行き止まりになっていたのだった。 このバーニョレージョ(Bagnoregio)という小さな村からチビタ(Civita di Bagnoregio)方面への道は、途中で右に曲がる下り坂はチビタに直接つながっているが、例の車は通れない細い橋の手前でで行きどまり、右に曲がらずまっすぐ行くと「別の眺めの良い場所」の駐車場で行き止まりだったのだ。 要するにどちらの道も行き止まりで、チビタを通り抜けて更に進む道はないということがわかった。

車を降りて「別の眺めの良い場所」に行ってみると、そこはなんと前日に二度も歩いて行った「眺めの良い場所」と同じ場所だった。 閉まっているカフェの中庭を通り抜けると、そこが前日下の道から階段を上ってきた空き地だったのだ。 なるほど、そういう位置関係だったのねと納得したのだった。

前日に散々時間をかけて眺めたチビタの景色なのだが、またまた感動して眺めてしまう。 この景色は一生忘れられないと思うほどのインパクトを残してくれた。 チビタが完全に崩壊してしまうまでにあと何年かかるのかな?とふと思った。 

さて、チビタをずーと眺めていたい気持ちを振り切って、この信じられない風景の村に別れを告げた。 今日はこの旅行で唯一宿を予約していない日なので、少し早く目的地に着いて宿探しをしなくてはならないのだ。





・・・・・・・・ to be continued


フィレンツェからチビタへ  ラディコファーニ 1



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