★ オルチア渓谷とモンテキエッロ ★


 さて、思いもかけずイタリアの秘湯?「白い滝」を楽しむことができてとても満足したのだが、そろそろトスカーナの中心へと向かうことにしよう。 カーナビに、昨年行った「景色2」の場所をセッティングしてからトスカーナ地方の田舎の道をのんびりと北上する。

ドライブはとても気分が良い、道はガラガラで天気は良いのだから当然かもしれないが。 快適なドライブを続けていると、記憶に残る風景がだんだん現れてきた。 確かに昨年の夏走った道なのだが何となく違うような気がする。 でも懐かしい気分とうれしい気分で浮き浮きしてくるのがわかる。 夏は小麦色の風景の中を走ったのだが、今は緑色の風景なので少し違和感を感じたのだということが徐々にわかってきた。


 景色2に到着し、昨年の夏と同じ場所に車を停めて回りを見てみると、そこには絵葉書と同じような緑の草原が一面に広がっていた。 そう、この景色を見ようとはるばるこのトスカーナ地方の再訪を決意したのだということを思い出して、なぜか感動してしまう。 前回と同じように、この絵に描いたような景色は我々が独占しており、草原の中に道が1本走っているだけでの風景には駐車場も店も何もない、景色2はそんな場所なのだ。

続いて景色1まで足を伸ばすことにした。 景色1に着くと車を昨年と同じ場所に停めてから懐かしい景色を楽しむ。 こちらも一面が緑の草原でうれしくなる。 のんびりと時間を使い、この本当に美しく夏とはまた違う雰囲気を醸し出すオルチア渓谷の景色を飽きることもなく眺めるのだった。 幸せな時間とはこのことなんだなぁ・・・、どうしてこんなに気分が落ち着くのだろうか? 不思議な気持ちだ。

春の見渡す限りオール緑の風景は、まったく見飽きることがないので時間が経つのを忘れてしまう。 太陽は低くなり夕方の光になってきた、そろそろ今夜の宿があるモンテキエッロ(Montecchiello)へと向かうことにしよう。 モンテキエッロは昨年の夏ふらりと立ち寄った小さな村で、そこから見るピエンツァ(Pienza)を遥かに望むオルチア渓谷の絶景が忘れられなくて、今回の旅行では必ずこの村に一泊しようという計画を立てていたのだ。


 モンテキエッロに向かう道は、周辺が緑であること以外は昨年の夏とまったく同じだった。 城壁の外の駐車場に車を停めてから、予約していた城壁の中のB&Bを歩いて探す。 小さな村なので、そのB&Bはすぐに見つかった、というのもこのあたりかなぁと言いながら歩いていたら、とある家の中から「ウェルカム」って言いながらお姉さんが笑顔で現れたのだ、彼女がフランチェスカだった。 2階の部屋に案内される。 広くて素敵な部屋だ、窓を開けるとオルチア渓谷が目の前に広がっていた。 窓の下にはこの家の美しい庭が見える。

ウェルカムコーヒーとホームメイドクッキーを楽しみながら、この窓からの眺めを堪能する。 しばらく窓から外を眺めてから、窓の下に見えた庭に行って見る。 庭はこのB&Bが所有しており手入れが行く届いた可愛らしい庭だった。 目の前に広がる景色がすばらしい! 小さな村は静かで、虫の声と鳥の声しか聞こえない。 人工的な音がまったくしないのだ、のんびりと時間が流れていくのが実感できる。 毎日が騒音で溢れる日常にどっぷりつかっている我々には、このまったりとした時間がとてもうれしく幸せを感じる瞬間なのだった。

庭でほっこりしていたら、突然話しかけてくるおばさんがいた。 なんと、フランチェスカの母上であった。 上品な人だ、母上は、にっこりと微笑みながら、「ここはあなた達のお家だと思っていいから、ゆっくりとくつろいで楽しんでね」って言ってくれた。 B&Bに泊まると、このように実際にそこに住んでいる人と触れ合うことができるので楽しい、設備が行き届いているホテルとはまた違った面白さがある。


モンテキエッロで楽しみにしていたのは、この高台の村の城壁付近から眺めるオルチア渓谷の絶景と、もうひとつが評判の高いレストランでの食事だった。 城壁の門の入り口すぐの場所にあるレストランがお洒落で可愛らしく、夏初めてこの村に来たときに印象に残っていたのだが、このレストランは La Porta という名前で、結構評判が高いということが日本に戻ってからわかったのだった。 村に一泊すればこのレストランでトスカーナワインと料理をじっくりと楽しめるということでとても楽しみにしていたのだ。 フランチェスカにそのことを話すと、彼女はとても残念そうに「確かにすばらしいレストランだけど、あいにく今日は定休日よ」と言ったぞ! なにぃ!!!!

そう、レストランは定休日だったのだ。 観光地で評判の高いレストランに定休日があるとは考えもしなかったのか? 定休日という言葉なんてまったく頭に浮かばなかったような気がして茫然自失状態になってしまう。 さらに彼女は「最近、La Porta の経営者が別のレストランを村の中に開店したけれどそこも今日が定休日で、村にある更に別のレストランも今日は定休日、今夜開いているレストランは1軒だけしかないわ」と言うのだ。 油断した、としか言いようがないが、私としたことがお目当てのレストランの定休日を確認していなかったという大失敗をしてしまった! そうと知っていれば、先にピエンツァに入ってからこの村に来ればよかったのだ!

なんと言うことだろうか、この村の4軒のレストランのうち3軒が定休日の日に我々は宿泊することになっていたのだ、B&Bを予約するときに確認しておくべきだったと悔やむが後の祭りとはこのことだ。 仕方なくお目当てのレストランは諦めて、唯一開いているレストランに予約を入れる、といってもそのレストランはB&Bから歩いて1分の距離にあり、彼女と一緒にレストランに行って直接予約しただけ、それほど小さな村なのだ。


 夕食まで時間があるので、また庭で幸せな時間を過ごす。 夕方の景色も素晴らしい、この景色は何度見ても何時間見ていも飽きるということがない。 その入り口の小さなレストランは、中は広くて洞窟のような感じだった。 まだ時間が早いのか我々の貸切状態だ。 コックのおじさんがウエイターも兼ねているようで、おじさんにワインと料理をオーダーして「料理は二人でシェアする」と言うと、二等分して二つの皿に盛り分けてくれた、すばらしい。 

夕食は、いつものトスカーナ地方名物の手つくりパスタのピチ(Pici)とフィレステーキで、ワインの味も含めて満足だった。 デザートは、甘いワインにつけて食べるビスケット(イタリアではビスコッティ)で、なかなか美味しかった。 こんなに小さな村なのに、4件もレストランがありそのひとつがこんなにしっかりとした料理を出すという事実にイタリアの食文化の深さを見た気がした。

ゆっくりと食事していると、デザートの頃に突然派手なおばさんが登場、彼女が接客担当らしいがちょっとよろしくない、なにかと説明が多くて口うるさい感じで参ったが一番参ったのは強烈なコロンの香りだった。 料理の味が変わってしまうほどの香りでびっくりした、鼻が曲がるかと思った。 メインディッシュが終わっていて良かった!

夕食をゆっくりと食べてから外に出ると、夜の10時になっており真っ暗で誰ひとり歩いていない。 なんと、信じられないのだが、風がとても強くて気温が下がっていてとても寒い。 昼間の穏やかな気候からは想像できない気温の下がり方だ。 寒さと風にに震えながらB&Bに戻った、ドアを開けると何と階段には火のついたロウソクが全ての段の端に並べてられてあり、ゆらゆらと揺れる炎がとても幻想的な雰囲気だった。 宿泊しているのは我々だけだから、このロウソクは我々のために準備されていたということになる。 フランチェスカの気配りがうれしかった。


 朝、鳥の声で目が覚める。 既に日は高く、モンテキエッロのB&Bの大きな窓から、無数の鳥たちが楽しそうに歌いながら飛び回っているのが見えた。 窓の下にはこのB&Bのプライベートガーデンが朝日に輝いていて美しい。

このお家の食堂でゆっくりと朝食を食べる。 フランチェスカの作る朝食は手作りのものばかりでとても美味しい。 日本の地震と津波はここイタリアでも大々的に報道されたらしい。 彼女は日本のことをとても心配しており、「日本は大きな地震と津波でたいへんだったでしょう? あなた達は大丈夫だったの?」と無邪気に聞いてくる。 トスカーナの美しい風景、夏と春では色が全然違っていて楽しいと言う話をしたら、冬は大変で大雪が降ることがあり観光客はモンテキエッロまでとても来られないのでB&Bは営業しないと言っていた。 秋のトスカーナもとても美しいと彼女が言っていたのが印象的だった。 いろいろと世間話などしているうちに折り紙教室が始まり、なんだかんだと盛り上がってしまい、気が付けば2時間の長い朝食となってしまった。

朝食後には、またまた家の前のプライベート庭園で素晴らしい景色を堪能してから、フランチェスカとお上品な母上にご挨拶してこの素敵なB&Bにお別れをした。 チェックアウトしてからしばらくの時間、この小さな村をぶらぶらしたが、昨年とまったく何も変わっていない風景に大きく安心する。 村の広場でフランチェスカが友人とおしゃべりしているのを見つけた。 今日はB&Bには予約が入っていないのかな、のんびりとして平和な風景だな、などと言いながら更に村をぶらぶらする。 レストラン La Porta を睨み付け、村の入り口付近から眺めるオルチア渓谷の絶景を目に焼けつけてから、この小さくて美しい村を後にした。





・・・・・・・・ to be continued


サルバトーレと白い滝 オルチア渓谷と小さな礼拝堂



トスカーナ2 に戻る



ご意見は hiro_homepage@ab.auone-net.jp まで

Copyright (C) "HIRO" 1997-2011