★ オルチア渓谷と小さな礼拝堂 ★



 オルチア渓谷の小さくて美しい村 モンテキエッロ にお別れして、すぐ近くの「景色3」へと車を走らせる。 この景色3は昨年なかなか見つけることが出来なかった「両側に糸杉がある、くねくね道の坂道」の美しい風景だ。 ここも、一面の緑の丘になっていた。 トスカーナの風に吹かれながら、この美しい絵ハガキのような景色を飽きることなく見ているのは昨年とまるで同じだ。

絵に描いたような風景の中、一台の車がゆっくりとくねくね道の坂道を上ってゆく、ゆっくりゆっくりと絵葉書の中に1台の小さな車だけが動いている。 私も、この絵の中に入りたいなぁと思った。

さて、このままずーとここにいて幸せな時間を楽しみたいところだが、そうすると確実に夕方になってしまう。 この美しい緑の景色を目に焼き付けてから次の目的地へと向かう。 次の目的地は「景色4」だ。 昨年の夏に時間の関係で行けなかった、というか場所がはっきりとわからなくて断念した場所がこの「景色4」なのだ。 景色4は、絵葉書などではたびたび登場する「丘の上にぽつんと立っている、糸杉に挟まれた、小さな可愛らしい教会」だ。

昨年は事前に日本で場所を調べたのだがどうもよくわからない、複数のレポートが「遠くに見えるのだけれど、辿り着くのがとても難しい」というように書いていて、簡単にはアクセスできない場所であることは確からしい。 今回は、日本で前回以上に相当しつこく調べたのだがやはりどうも場所がはっきりとしない。 それでも苦労して情報を探り、それらしき場所を二箇所に絞り、カーナビに座標を打ち込んでおいたのだった。


 景色3を出発し、まず最初に打ち込んだ座標で景色4を目指す。 カーナビの案内どおりに車は進む、すると驚いたことに、いままで感動しながら眺めていた景色3のまさにその中のくねくね坂道に向かっているではないか! 絵葉書の一部になれるかもしれない、とてもうれしくなる。

絵葉書の中の道を走っているという夢のような気分を味わいながら、車はくねくねする坂道をゆっくりと上ってゆく。 ところが驚いたことに、この坂道はとっても普通の道なのであった。 道の両側には確かに糸杉が規則正しく並んでいるのだがそれも含めて普通の坂道なのだ。 周囲を見渡しても普通の景色があるだけで、あの美しい風景の中を走っている実感が全然湧かない。 やはり、美しい景色は遠くから眺めるに限るということだろうか? 残念!

坂道を上りきると道は平坦になってしまった。 絵の中から抜け出したということだと思った。 カーナビの指示通りにしばらく走ると「目的に地に着きました」というアナウンス。 うーんどう考えても場所が違うぞ。 道は山の中の一本道で、周囲は森のような感じで木々が生い茂っている、とても写真で見た「丘の上の教会」があるような風景ではない。 そのまましばらく走っても景色は変わらないので、最初の座標は違うと判断して第二のの座標に目的地を変更した。

カーナビは、Uターンしろと言っている。 指示通りにUターンしていま来た道をまた戻り、またまた絵葉書の中の坂道を今度は下り、景色3の近くを通過して車は走る。 そのうち何となく見覚えのある風景となってきた。 車はPienzaに向かっていたのだった。


 懐かしのPienzaをあっという間に通り抜けてしまい、車は昨年は走らなかった初めての道をどんどん進む。 しばらく走っているとカーナビが「もう少し走って左に曲がれ」と言ってきた。 一本道で曲がり道なんかないと思っていたら、何と指示された場所に細い下り坂があったので曲がってみた。 下り坂の途中で、遥か前方の丘の上にその教会が見えることに気がついた! やったぞ、あれが目指す教会だと踊りだしたい気分になったことはいうまでもない。  あの教会へ行くぞ、と未舗装の細い坂道をどんどん下る。

カーナビは更に細い道を左に曲がれと指示してきた、ところがその道は完全なダート道でとても車なんて通れないぞ! この細いダートな曲がり道を一旦通り過ぎて進んでゆくと、道は一軒家の農家で行き止まりとなった。 車を停めて歩いて戻りカーナビの示す道をチェックするが、道の半分が水が干上がった川状態で車は通行できない、既に道とはいえない状態なのだ。 さてどうしたものかと遠くの教会を見ながら思案してしまう。

干上がった川状態の道の先を確認したが、とても車が通れる道はなく畑になってしまうのだ。 しかし、遠くの教会を眺めていると、丘の上の教会から一本の道がこちら方向に向かって伸びているのが見えた。 あの道にたどり着けば教会に行けるかもしれない。 その道は、丘を下り途中で曲がっているのだが木々に遮られて曲がった先がまったく見えない。 なんとなく道の曲がった先の方向を予測してから、車に戻り坂道を取って返して元の道へと戻り、この丘へと続く道を探し始めた。

一本道を走りながら、左に曲がる道があれば全部曲がって確認するが期待する道にはたどり着けない。 曲がった道の先のアグリツーリズモで教会の写真を見せて「ここに行きたいのだ!」と言うと「2キロ先の道を曲がれば着ける」と言われた。 さすが地元の人だ、最初から聞けばよかったと思いながら言われたとおりの道を探すが、信じられないことにその道が見つからない。 最初に教会が遠くに見えた場所を中心に、この道を行ったりきたりしながら丘の坂道へ続く道を探すが、全然たどり着けない。 時間ばかりが過ぎてゆき、結局1時間以上もこのカーブが連続する道を走り続けて、この付近をさまようことになってしまった。

同じ道を行ったりきたりしながら1時間も走り続けると、流石に気分が悪くなってきた。 頭痛が始まり吐き気がしてきた、もうこれ以上運転できない。 最初の細い坂道に戻り、遠くの教会を恨めしそうに見ながら休憩するしかなかったのだった。


ここから眺める教会で我慢するしかないのか! 諦めるか! とも思ったが、やはり諦めきれない。 歩くしかないのかもしれない。 車を坂道途中のお墓の横に停めて歩くことを決意した。 川が干上がったようなダートな道を通り抜けるとそこは畑で道はない。 畑のあぜ道を通り抜け小川を迂回しながら森の反対側に出るとそこにはまた別の畑が続いていた。 連続する畑を次々と横切って道なき道を歩き林を突っ切ると、やっと教会へと続く坂道の下に着いた。 ここからは急な丘の坂道をひたすら登る。 長い上り坂を15分歩き、汗だくになりながらやっと丘の上の教会に到着したのだった。


 近くで見ると、それは小さな小さな教会だった。 この小さな教会は、サン・クイリコ・ドルチャにある聖母マリア教会の礼拝堂 (Cappella della Madonna di Vitaleta) とのこと。 どうして村からこんなに離れた場所にあるのかとても不思議だが、この礼拝堂のある風景は絵葉書にもなっており、オルチア渓谷のシンボルとなっている。

念願の教会(礼拝堂)に苦労して着いた、どっと疲れてきたので礼拝堂の横の木陰で休んでいたら、反対側の道から歩いてくる二人を発見。 カリフォルニアから来た陽気な年配夫婦の彼らは、ピエンツァ郊外のアグリツーリズモに長期滞在しながらゆっくりとこのあたりを楽しんでいるとのこと、うらやましい旅だ。 彼らは我々とは逆の道から来たのだが、何とメイン道路から細い道に入った一本道がここにつながっているのだという。 途中で車を停めてあとは歩いてきたらしい。 我々が長い坂道を歩いてきたというと驚いていた。 更に遠くに小さく見える車の場所から森と畑の中を歩いてきたというと、本当にびっくりした顔をしていた。 

念願の場所に来た満足感、青い空と美しい空気、そして小さな礼拝堂、幸せな気分だ。 あそこまで歩いて戻るのは大変だろうといいながら、自分達の車で我々の車の場所まで送ってあげようと言ってくれた親切な夫婦の提案を丁寧にお断りして、この年配夫婦をお見送りしてから我々は更にこの場所でのんびりするのだった。

十分に休息をとり、この素晴らしい景色を堪能してから、来たときと同じ坂道を下り森を抜け畑を横切りお墓の横の車まで戻った。 気分はすっかり回復して頭痛もどこかへ吹っ飛んでいるのに気が付いた。 澄んだ空気、目に優しい緑の風景、その中を歩いてきたのだから当然なのかもしれない。




・・・・・・・・ to be continued


 オルチア渓谷とモンテキエッロ ピエンツァ



トスカーナ2 に戻る



ご意見は hiro_homepage@ab.auone-net.jp まで

Copyright (C) "HIRO" 1997-2011