★ ヴィエリチカ ★



 朝早く起きようと思ったが、寝過ごした。 前日に訪問した強制収用所跡の事を考えながら寝たので悪い夢を見たのかもしれない。 今日の予定はクラクフ郊外にある世界遺産の塩採掘所跡の「ヴィエリチカ」を訪れてから、ポーランド西にあるザモシチまでの長距離ドライブだ。

クラクフの町はとても走りづらい、バスとトラムが優先されるレーンが多くて、更に朝の通勤時間帯で人がいっぱい。 トラムは信号の手前で止り、乗客は歩道から道路を横切り乗り降りするのだが、注意しないとトラムと歩道の間の道路(ここが車の走る道路)に突っ込みトラムに乗り降りする乗客の邪魔になってしまうのだ。 信号機がまた大変で、4種類程の信号機上にごちゃごちゃと説明が書いてあり、たくさんの→が点いたり消えたりする。 生まれて初めてこの街を運転する私にはとても意味している内容が判断できない。 なるべく左折はしないように右折を繰り返して、慎重に運転しながらこの恐怖の街を無事脱出したのだった。

ヴィエリチカは国道沿いの小さな町だった。 世界遺産だから大きな表示があると思っていたのだが、ほんとうに小さな道路標示があっただけで当然のように我々の車は通り過ぎてしまった。 Uターンを繰り返しやっと到着。着いてびっくり、チケット売り場には長蛇の列。 ここでは地下深くの塩山跡を見学するのであるが、小グループ単位のツアーに入らないと中に入れない仕組みでそのツアーチケットを購入するための長い列だった。 30分以上も並んでやっと英語ツアーのチケットを購入してから、何故か一日に数回しかない英語ツアーに参加することができた。

 制服を着てヘルメットを被ったツアーガイドのおじさんが登場、小さな入り口から地下の塩採掘跡を巡るツアーが始まった。 400段以上の狭い螺旋階段(また螺旋階段!)をひたすら下って地下60メートルに降り立った。ここまでくると温度は下がりとても寒い。 空気に塩の成分が多く含まれているのが感覚的にわかる。 ツアーはこの地底の塩山跡を地下100メートル以上まで下る3キロ近くのコースをガイドに引率されて歩く。 教会や地底湖、昔の塩の採掘の様子など次々に現れるこの地下の都市は驚くべき光景だった。 
複雑な通路を歩いて回る途中に、塩で作った像が何体も出現する。 この国の英雄コペルニクスであったり作業者だったり、白雪姫だったり、豪華なものだ。 更に大規模なチャペルがあり、塩で造ったシャンデリアやこれまた塩で描いたダ・ビンチの最後の晩餐など驚くべきものが見られる。 運動場もあると聞いてもう目が点になってしまった。

ツアーは地下で解散、ここから地上まで一気にリフトで戻ってくるのだがこのリフトがすごかった。 10名程度が乗った「単なるカゴ」が、猛烈な速度で真っ暗闇の中を上昇して、文字通り「あっと言う間」ほんの数秒で地上に我々を運ぶ仕掛けなのだ。

 地底の驚くべき都市から地上に戻ってきて一安心してから、次の目的地であるザモシチへと車を走らせる。 とりあえず幹線道路を西へと走る。 幹線道路は交通量が多く、道路工事近くや都市周辺では渋滞しており予定していた距離が稼げない。 この渋滞を我慢して走ると、郊外で車が流れ始めるのだが、ここからが恐怖の体験が待っていた。 幹線道路といっても片側1車線で、そこには馬車や自転車や歩行者や遅い地元の作業トラックが時々走っている。 信じられないことは大型トラックや高級車は130キロのスピードそのままでそれらをハンドルで避ける運転をすることだ。彼らは常にセンターラインを超えて追い越しをかけるのだ、反対の対向車線に車がいようといまいとお構いなしにやるところがすごい。

 最初にそのクレージーな車が、対向車線から突然飛び出して目の前に出現したときは驚いて右にハンドルを切り路肩を使いなんとか回避した。 しかしそれが何度も続くとこちらも慣れてきて対向車のセンターラインオーバーを事前に予測してこちらも速度そのままで右にハンドルを切って簡単に避けることができるようになってきた。 しかし危険な運転習慣ではある。

クレージーな追い越しを仕掛ける車が多くて戸惑ったが、ここ数年ポルトガルの道路での運転を経験した私にとってこの程度の危ない連中は少し慣れると怖くもない、余裕である。
途中の大都市をいくつか通過すると、やっと交通量が少なくなり快適なドライブとなった。 前も後ろもただまっすぐな道をひたすら走る。山がないこの国の景色は右にも左にも広大な草原と地平線が見えるという単調なものだが、日本ではこんな風景は北海道でしかみられない。

快適に走っていると、対向車が突然パッシングライトを送ってきた。 前の車が急速にスピードを落とす。 しばらく走るとパトカーがスピード違反の取締りをやっていたのだ。 なんて親切な連中だ、昔は日本もそうだったなあと思いながらパトカーを通り過ぎてからまたスピードを上げる私であった。

油断は禁物! 対向車もいなくなった道を快調に走っていると突然前方に警官らしき制服の姿が現れた。 路肩に寄れと言っている、しまった完全にスピード違反だ。 窓を下ろすと太った警察官が何かギャーギャーと言っているぞ、ポーランド語を話せと言っているようだ。 こちらも日本語と英語で応酬するが全然会話にならない。 しばらくこの互いに話すが意味が通じない状況が続いたあと、警官は道路の反対側のパトカーに戻り同僚とこちらを指差しながら何か話している。 しかたない、決着をつけようと車を降りて彼らのほうに歩いてゆこうとすると、その太った警官は面倒くさそうに手を振って「行ってもいいぞ」のゼスチャー。 
ラッキーとばかりにその場を離れたことは言うまでもない。 海外でスピード違反で捕まった最初の貴重な経験は無罪放免となったのである。

結局、渋滞やスピード違反などで時間がかかり、ザモシチには午後8時前に到着。 この時間まだ外は明るかったが、長距離/長時間の運転はさすがに疲れた。 




・・・・・・・・ to be continued




オシフィエンチム ザモシチ



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