★ ヴォロネッツとフモール修道院 ★


 スチャバの朝、まだ時差ボケで眠い。 観光はあきらめて朝寝を決め込む。 ホテルのフロントでレンタカー会社オフィスの場所を確認すると、ここからは近いけれど歩いては無理ね、バスかタクシーを使うべきねと言われた。 タクシーを呼んでレンタカー会社ダウンタウンオフィスに向かったが、そのレンタカー会社のオフィスは、とんでもないところだった。

日本からレンタカーを予約しようと思いAVISとHerzで調べたが、両社ともここスチャバにはオフィスがなかった。 Europcarも同様に事務所が見つからない。 「Eurocars」 という会社の事務所をスチャバに見つけたぞ、Europcarと同じかな、微妙にスペルが違っているけど大丈夫かな。 でもホームページの内容はしっかりしていて大手のものに比べても遜色ないし、ブカレスト乗り捨ても出来そうだ、値段は安いぞ。 コンパクトカーはオペルやプジョー、ワーゲンなどいろいろ揃っていたが、せっかくの機会だと考えてルーマニア国産車のダキア(Dacia)を指定して申し込んだ。 回答はすぐにメールで来たが、車種は大宇のMarizしか用意できないという、少し嫌な予感がしたが仕方ないかなとこれを了解して予約完了していたのだった。

タクシーが着いた場所は道路沿いの修理工場のような場所だった、タクシーを待たせてプレハブの建物の中にいたおじさんに確認すると、ここが確かにEurocarsの事務所だという。 修理工場のようなプレハブ事務所の中には愛想のよいおじさんと若いお兄さんがいた、このおじさんがメールに書いてあったEurocars現地オフィス責任者だった。 でもどこにもEurocarsなんて書いてないぞ、確認するとここはEurocars社と提携している地元の会社とのこと、驚いたことに、このEuropcarという会社はEuropcarとはまったく別の会社であった。 Europcarはヨーロッパ全域をカバーしているが、このEurocarsはルーマニア国内の会社だと説明された。 まったく、ややこしい名前を使うなっつうの。

AVIS, Herz, Europcarの事務所では「こぎれいなダウンタウン事務所」「空調の効いた部屋で手続き、制服の事務員」「プロ的な慣れた事務処理」が共通だが、ここでは「工場のようなプレハブ事務所」「空調はなくて蒸し暑い、くたびれたTシャツのおじさんとお兄さん」「古いパソコンで効率の悪い書類作成」という状況で、我々はどんどん不安が募る。 しかしおじさんはとても愛想良く上機嫌でお話しながらまずいコーヒーなど淹れてくれた。 そして、「俺はこれで帰る、何かあったら電話をくれ、電話番号は車の後ろに書いてある」と言い残して本当に帰ってしまった。

確かに車の後ろに大きく電話番号が書いてあったが、こんなに大きく電話番号が印刷されているレンタカーは見たことがないぞ。 しかしそれ以上に驚いたのはこの車そのものだった、青い韓国の車 Mariz は予想以上に小さな車だった。 あちこちにスリ傷があり老朽化が隠せない雰囲気の800ccの車で、ドアは完全マニュアル、つまりすべてのドアがキーでしか開閉しないという日本では大昔に滅んだ種類の車、もちろん窓は手動開閉でパワステもない。 走行距離はメーターによると3万6千キロだったが、クラッチはスムーズに繋がらずブレーキは効かない、そしてアクセル踏んでも加速がすごく鈍い。

このメータは一周回っているねと直感的に思った。 このボロボロ車で一週間もルーマニアを走るのかと思うと憂鬱になってしまった。 まあエアコンだけは付いてたので我慢するか、とってもうるさいエアコンだけれど。 文句を言おうにも、この事務所の駐車場(といっても未舗装の空き地)には我々のために用意されたこの車 -Mariz- 以外には車は見当たらなかったのだが。

のろのろとした手続きをやっと終わらせ、キーを受け取り気を取り直して出発だ、さっそく郊外へと車を走らせる。 悲しいことに道路が少し登りになっただけでアクセルを床まで踏んでもスピードが落ちる、真後ろに大型トラックが迫りパッシングとホーンを浴びせかけられるがどうしようもない、怖い怖い、次々と車に抜かれてゆく。 ルーマニアの一般道路は制限時速50kmだが誰一人守っていない、この国の運転手はスペインやポルトガルと同じように全員がクレイジードライバーだったのだ。 過去ヨーロッパで乗ったレンタカーは数多いが、基本的に最新モデルの新車同様の車が普通で性能は申し分なく快適なドライブだった。 このボロ車との性能差を現実に思い知らされ、怒りが込み上げてきたのだった。


 こんなにひどい車は初めてだと悪態をつきながらもなんとか走り続けて、やっと最初の目的地であるヴォロネッツ修道院に到着した。 到着の前から雲行きが怪しくなり、まさに駐車場に着いたその瞬間に雷が鳴り響き土砂降りの雨になった。 バケツをひっくり返したような雨になりとても車から出られない。 1時間以上も車の中で休む羽目になってしまった。 やっと雨が止んだので修道院へと行ってみた。 ここヴォロネッツ修道院は世界遺産に指定されているルーマニア5つの修道院のひとつで、我々にとっての最初の修道院である。
 
一目見た途端に、すばらしいと思わず叫んだ。 外壁には隙間なくびっしりとフレスコ画が描かれており、全体的に青が印象的な絵は美しい。 とても500年もの月日を経ているとは思えない強い存在感がある、保存状態が良い天地創造の絵は周辺の修道院群の壁画の中でも最高傑作といわれており、パンフレットによると「中欧のシスティーナ礼拝堂」と呼ばれているらしい。 確かにすばらしいがそこまでは言いすぎでしょう、バチカンの人が聞いたら怒るよ! 更に驚いたのは、修道院の中に入るとすべての内壁にもすきまなく壁画が描かれていたことだった。 当時文字が読めなかった民衆のために聖書の場面を中心にわかりやすい絵での説明となっており、これら教会が民衆のために作られたことがわかる。 この修道院には黒い服を着た修道女が昔と同じように厳しい戒律を守り毎日のお勤めを果たしている、修道院の内部では厳粛なお祈りが行なわれていた。


 次に向かったのはフモール修道院だ、少しわかりにくい道を進みなんとか到着。 この修道院には駐車場もなくて静かなものだ。 いったん去った夕立のあと青空が広がっていた空がまたまた怪しくなっていた。 入場と同時にまた雷が雨雲を連れてきた。 再び大雨となり修道院の中で1時間ほど雨宿り、でも雨のフモール修道院を堪能することができたと前向きに考える。 フモール修道院の外壁は赤が美しく、ヴォロネッツ修道院外壁の青とはまた違う雰囲気がある。 ここでも黒い服の修道女が雨の中を修行に向かう姿を目にする。
既に時間は夕方の5時を過ぎてしまった、もう一箇所予定していた修道院は諦めてホテルに向かうことにした。 途中道に迷ったりしながら時間をロスしたが、田舎の小さな脇道では人間ではなくニワトリ、カモなどが道路を我がもの顔で歩き回る場面に何度も遭遇してとても面白かった。


 ホテルがある村に入る直前、ちょうど走っている直線道路の先に大きな稲光が見えた。 村に入るとまたまた雨が降ってきた。 ホテルの場所がわからずに村をぐるぐる回ったりガソリンスタンドで聞いたりして、結局ホテルに着いたのは夜の7時を過ぎてしまった。 このホテルはLonely Planetに載っていたペンションでLuxorというのだが、部屋は広くてシンプル、清潔で落ち着いたペンションだった。1階のレストランで夕食をとったが意外なことに、ここは小さな村には似合わない本格的なレストランだった。

1階、テラス、2階からなるレストランは、装飾も立派で雰囲気も良い。 ところが常連が2階に少しいるだけで広い1階には我々二人しか客がいない。 まあ貸切でいいかと考えてゆっくりと食事をしていたら、突然停電となりレストランは真っ暗となってしまった。 BGMもなくなって静寂と暗闇となった。 しかし従業員も客もまったく騒がないぞ。 しばらくすると、従業員がローソクを持ってきた、さっきの夕立で停電が断続的に発生しているのでローソクで我慢して欲しいとの説明。 このローソク立ては大きなローソクが三本立てられる昔の映画の中に登場するヨーロッパの古城で使われていたような本格的なもので、相当使い込んでいるのがわかる。 停電は日常的に発生するということか、だから誰も騒がないのかと納得した。

思いがけずローソクの夕食となったのではあるが、こんなアクシデントも旅の醍醐味だなあと話しながら、ゆっくりと時間の流れるルーマニアの夜を楽しむのであった。


・・・・・・・・ to be continued


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