★ シビウ ★


 山の上の教会はおもしろかったが、あまり時間をかけるとまたまた次の目的地へ着けなくなると心配になり、この教会を引き上げることにした。 駐車場に戻り車のエンジンをかけようとしたが、かからない! おいおい、どうしたのだと言いながら何回もキーを回すがキュルルという音だけでかからない。 嫌な予感がして、手元のレバーの位置を見て・・・ 状況を悟った・・・ なんとヘッドライトを消すのを忘れてそのまま教会見学にいっていたのだった。 到着したときに、ジプシーたちを追い払うのに忙しくて、ライトのことはすっかり忘れてしまっていたのだった。

このボロレンタカーには、ライト消し忘れのアラームも装備されていなかったのだ! しかしたった30分でバッテリーが上がるとは信じられないなぁ。 でも困ったぞ、エンジンはうんともすんとも言わないぞ。 仕方ない、こうなったらジプシーたちに頼み込んで助けてもらうしかないかな、お金払わないとやってくれないだろうな、などと考えていたら、我々の後から駐車場に戻ってきた地元の観光客らしき一団を発見、ちょうどマイクロバスに乗り込み出発しようとしていた彼らをストップさせ、「Help! Help! We need your help!」と叫んで事情を説明したのだった。

幸運なことに彼らはとても親切であった。 怖そうなおばさんが「みんなでこの困っている人と車を助けるのよ!」と命令した途端、全員が車を降りて、我々の車を押し始めた。 更に幸運なことに、この教会は山の上にあるので駐車場から手押しで車を道路まで動かすと、そこからの道路は下り坂だった。 更に更に幸運なことに、このボロ車は旧式中の旧式なので、つまり電子制御などまったく装備されていないフルマニュアルなので、昔ながらの坂道を利用した押し掛けによるエンジン始動が出来たのだ!

坂道を使った押し掛けは一発で成功した。 いったい何十年ぶりの押し掛けだったかと思うと、手順を覚えていた自分に拍手したくなった、うれしい。 エンジンのかかった車を坂道に停めてから、坂の上で心配そうに見守っていた彼らのところまで走ってゆき、「ありがとう、お蔭様でうまくいったよ、みんな本当にありがとう」とお礼を言うと、「よかったね、楽しい旅行を!」と言って、みんな自分のことのように喜んでくれた。 親切な彼らの笑顔が忘れられない。 みんなに何度もお礼を言ってから、さて再出発だ。


ライトを消してエアコンもOFFにしてエンストしないように慎重に車を走らせる。 慎重に運転しながら幹線道路をしばらく快調に走り続ける。 なんとなくバッテリーが充電できてきた様な気がしてきた。 対向車が盛んにパッシングするので前方にスピード違反取締りが何かあるのかなと思っていたら前を走る車がスピードを落とし始めた。 警察官による検問だぞ!

路肩に停車させられて調べられている車があるぞ、そのまま行き過ぎようとしたら若い警官に停車を命じられた。 車を路肩に停車させて窓を開ける。 若い警官は早口のルーマニア語で何か言っているぞ、こちらが理解していないと見ると怪しい英語に切り替えてきた。 パスポート、免許証、車の書類など全部見せたらOKだと言う、でもどうしてライトをつけていないのかと言われ、ライトをつけて走るように指示された。 なるほど、停車させられたのはライトを点けずに走っていたからだったのか! バッテリーが弱っていてさっきは教会の駐車場でバッテリーがあがって大騒ぎしたばっかりだ、ライトをつけるとまたバッテリーがあがるので絶対にライトなんてつけないぞ! と一生懸命説明していたら、最初はそれでもつけろと言っていた警官はついに「わかったわっかった行ってよろしい」と言って、やっと開放されたのであった。

それからもライトはつけずエアコンもOFFのままで慎重な運転を続けた。 ガソリンがなくなってきたので仕方なく、ガソリンスタンドに車を入れてエンジンを切った。 ここでエンジンかからなくなっても何とかなると考えたのだ。 給油を完了してドキドキしながらエンジンをかけるとすんなりと始動した。 なんとか充電はできていると思いほっとする。 それからは安心してドライブを続け、やっと目的地のシビウに到着したのであった。 


 シビウではペンションを予約していたのであるが、そのぺンションから事前に「18時までには絶対に到着すること」「数日前にはリコファームの連絡を必ずすること」など細かい注文がメールできていた。 こんなに注文が多いペンションも珍しいなと思っていたのだが、それを僧院めぐりの途中で思い出してメールでリコンファームをしておいた。 即返信がきて、当日は絶対に18時までに着いて欲しい、事前に到着時間を連絡して欲しいと再度言ってきた。 おかしな宿だなあと思ったが言われたとおりにしないと怒られそうな気がして、あまり寄り道もせずに走り早めにシビウに到着したのだった。

シビウは大きな街だった、いつものお約束ではあるが道に迷ってあちこちぐるぐるまわったりしたが、なんとかペンションに辿り着いた。 17:30に到着すると、大きなシェパードがお出迎えだ。 人懐っこくて跳びかかって来るが大きいので少し怖い。 メールをくれた女主人は会うなり「ずーと待っていたのよ」と言われてしまった。 後からわかったのであるが、この宿を経営する夫婦は両親と一緒に住んでおり自宅は郊外にある。 宿泊客のチェックインを済ませてから夜は自宅で両親と一緒に夕食を食べるということになっているらしい。 だからどうしても早い時間にチェックインを完了させてしまいたいという訳だ。 おいおい、それはあなたたちの都合でしょうが、ゲストの予定を無理やり自分達の都合に合わせるってぇのはどういう了見なのか、とあきれてしまった。

部屋は清潔で、何と部屋に入るときは入り口で靴を脱ぐ、ペンション入り口には自動ロックの鍵がついており、中の庭にいる番犬のシェパードが夜は見張り番だ。 主人達が郊外の自宅へ戻ってしまっても大丈夫という訳だ。 壁で道路からは見えないチャーミングな中庭はとてもよい、花などもよく手入れされており落ち着く眺めだ。


部屋でお昼寝をしてから町の中心部へと出かけてみた。 落ち着きのある街並みだ。 「うそつき橋」という橋があり、この橋の上で嘘をつくと橋が崩れ落ちるという伝説があるとのこと。 金曜日ということもあり観光客も相当いたが、日本人は見当たらないなぁ。 この町の建物はとてもユニークだ、屋根に猫の目のような二つの窓が開いている建物があちこちにある。

ぶらぶら歩いているうちに教会の塔に登ろうという話になり行ってみた、夜の8時まで登れると扉には書いてあったが7時40分なのにもう閉まっている。 しかたなく町の中心部分をぶらぶらしてから宿の近くのルーマニア料理の店で夕食とした。 この国で3種類目のルーマニアビールはやはり美味しかった。 しかし、この店のミティティは1本がこれまでの倍の量で3本頼んだ私はこのミティティがメインディッシュより多いボリュームでとても食べきれなかった。 だいたい、この国ではどこにでもあるミティティはどこでも美味しいが、店によりその大きさが違いすぎて大変だ。


 翌朝の朝食、チェックインのときにオプションで朝ごはんが準備できるよと言われたので頼んでいたのだった。 前日に指定されていた中庭横の建物に行くと、英国からきた年配夫婦がすでに食べていた。 ところが料理も残り少なくてコーヒーも少ししか残っていない。 後から来て損した気分だなぁと思いながら、彼らとお話しながら朝食していると宿の主人(女主人ではなく旦那のほう)が現れて、遅れてゴメンゴメンといいながらコーヒー、パン、ハムチーズ一式を持ってきたぞ。 おいおい、我々は4人で分けながら食べていたぞと文句いったが主人は謝りっ放し。 人には早くチェックインしろとか注文は厳しいくせに自分達は時間にルーズな宿だとあきれてしまった。 
 
チェックアウトは11:30なので朝食後に教会の塔に再び行こうとしていたら女主人が登場、散歩に行くといったら今ここでチェックアウトしろと言う。 まだ時間があると言っても、私はお掃除したいのよ、とうるさい。 その迫力に負けてしまいチェックアウトしてしまった。 荷物を預けてから教会まで歩いてから塔に登ったのだが、この塔の中は例によって途中まで螺旋階段、その後は急な階段というつくりで登りきると汗だくになってしまった。 この塔からの美しいシビウの眺めを堪能し、また町をぶらぶらしてから宿に戻り荷物をピックアップした。

きれいな中庭なので写真を撮ったりしていると、二階から女主人が顔を出して「あんたたち、何してるの! 荷物を持って出て行きなさい」って怒られた。 彼女の中ではチェックアウトした瞬間に客ではなくなるらしい。 そう言えばLonely Planetにも、女主人がちょっと神経質でうるさい、それに比べて旦那のラッシーおとなしくていい奴だと書いてあったなあと思い出した。



 後日談 : 帰国してからこの宿の話になり、旦那のラッシーは気弱で無口でおとなしいのに女主人は怖かったねと話していたとき・・・ でもラッシーって変な名前だね、犬みたいといった瞬間・・・ そういえばあの大きなシェパードもラッシーと呼ばれていたような気がするねと・・・・ Lonely Planetをもう一度よく読んでみた。 ラッシーという犬がいて、こいつはとてもよい奴なのだという話だった! なる程ね、我々が勝手に旦那がラッシーだと思い込んでいただけか、と大笑いになった。


・・・・・・・・ to be continued


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